腕枕で眠らせて*eternal season*
「…も、う…ヤダよお……。もう…こんなの……イヤだ……」
その絞り出すように苦し気に言った台詞が、何を指してるかは分かっていた。
「…どうして…楷斗を好きなだけなのに、こんな目に合わなきゃいけないの…!?
毎日…知らない人にうしろ指さされて…、今日だって…机の中、ゴミ入れられてた…。受けた覚えの無い電話…私が伝達してないって言われて…課長に叱られた…。作った資料も全部捨てられてて…
…私、もう、会社に行くのがイヤだよ…」
そう訴えた美織の話の内容に、俺は想像以上の公香のやり口に驚いて咄嗟に言葉が出なかった。
ウソだろ?
いくらなんでもそんなイジメみたいな…
美織の勘違いだよ。だっていくら公香だってそこまでヒドイ事なんかしないって。
ほら、美織落ち込みやすいから、ちょっと疑心暗鬼になってるんだよ。
「…ねえ楷斗…!!私、悪い事した!?私、こんな目に合わなきゃいけないような悪い事したの!?」
美織が、感情を爆発させた。
溢れる涙をポタポタとこぼしながら俺の手を掴みまっすぐに叫ぶ。
「もうやだ!もうやだ!!
楷斗は私がこんな目に合っててもいいの!?私がこんな嫌がらせを受けても…それでも楷斗はあの女(ひと)と付き合うの!?」
痛いほどの、感情。
美織にこんな感情をぶつけられたのは初めてだった。
青白いほど血色の悪い顔に、艶を無くした唇が震えてる。隈のへばりついた瞳から涙ばかり零れて。
俺が彼女を好きになったあの日の面影とは程遠い。
―――可哀想な、美織。
「…何かの間違いじゃない?俺、二股とかしてないし。考えすぎじゃん?」
可哀想だから、目を逸らさせてやろうと思ったんだ。
今、俺が公香との事を認めたら美織は余計に傷付くって。
全部、勘違いだって、気のせいだって思えた方が美織は楽になれるんじゃないかって。
…それに。
やっぱりどこか、公香がそこまでヒドイ女だって信じたくなくて。
俺が、こんな事態を招いてるだなんて思いたくなくて。
「………楷斗………」
俺を映した美織の瞳が、見開かれたまま色を失っていった。