腕枕で眠らせて*eternal season*
そんな私の様子に気付かず、紗和己さんは荷物を持ち直しながら話し続ける。
「ましてや、これから日本を出るんです。こちらとは少し感覚が違いますよ。だから」
バサリ。
話を遮るように、掛けられたジャケットを脱いで彼に突っ返した。
「いらない。私、自分がそんな格好してると思ってないもの」
「美織さん」
不機嫌をあらわにした私の様子を目にして、紗和己さんが表情に困惑を乗せた。
「僕の言い方が気に障ったのなら謝ります。けど、僕は貴女を心配して――」
「紗和己さん、過保護。そりゃ私は紗和己さんほど外国慣れはしてないけどさ。でも私だって大人なんだからどんな格好が良くないかくらい自分で判断できます!」
この数日間、とってもワクワクしていた。今日と云う日を待ち遠しく思って準備をしてきた。
だからこそ。
こんなつまらない事で叱られるなんて。
こんな納得いかない事を言われるだなんて。
抑えきれず強くなってしまった語調に、紗和己さんが更に困った顔をする。
「美織さん、困らせないで下さい。僕は貴女の夫なんです。貴女を守るのは当然でしょう?」
「限度があるでしょ!紗和己さんの理屈と感覚で言ったら、私、何を着ればいいのか分かんない!前から思ってたけど、紗和己さん心配し過ぎ!私を子供扱いし過ぎだよ!」
「子供扱いなんかしてません。美織さんが悲しんだり困ったりするのが僕は嫌なだけです」
「それが子供扱いって言ってるの!私、大人なんだからもっと放っといて!」
「放っとけません。現にさっき困ってたじゃないですか」
「ひどい!それって、さっきのは私に原因があるって言いたいの!?」
ヒートアップしていく口論。
どんどん口調が強くなっていく私。
紗和己さんも喋り方こそ静かだけども、一歩も引く様子はない。
彼の表情は困惑と云うよりは、駄々っ子に手を焼く父親みたいな顔になっていて。
正直、それがますます私の気持ちを逆撫でる。