“ブラック”&“ホワイト”クリスマス
そのクリスマスケーキをレンヌに切り分けて貰う間、アンジュはノエルの方に視線を向け。
「つーか、また今年も、遅刻だよね?」
「まぁね…時間にルーズなのは、何年経っても治らないらしいな」
「時間じゃなく、本人の意識の問題だと思うけどね…」
多分この中で一番年齢が若いアンジュは、さも最もらしいことを呟いて、ため息をつく。
その次の瞬間には、レンヌが作ったケーキに舌鼓を打っているというのが、アンジュらしいのだが。
しばらくすると、部屋のドアが開く。
入ってきたのは、普通のサラリーマンが毎日仕事で着るようなヨレヨレのスーツに、同じようにヨレヨレのワイシャツ、それを第二ボタンまで外して、ネクタイはもう少しでほどけるんじゃないかという程ユルユルな男。
「おっ、今年も暇人がガン首揃えて、ご苦労なこったな」
「……遅い」
髪の毛までボサボサの男を、フォークをくわえたまま見上げるようにして睨むアンジュ。
だが男は、小さな包みをアンジュの目の前にぶら下げて。
「アンジュ~、ほれ、クリスマスプレゼント」
「えーなになにー!?」
包みを受け取りながら、アンジュは既に、言ってやろうと思っていた文句をすっかり忘れている。
開けてみると、小さな天使のキーホルダーだった。
……まぁ、造りも雑で、お世辞にも可愛いとは言えない。
「…なにこれ」
「さっき飲んだペットボトルについてたオマケだよ。その不細工さ、アンジュにすげぇ似てると思ってな。わざわざ百均でラッピング袋買ってきた」
「そういう所だけはマメなのよね、アダムって」
苦笑しながら、クロシェットはキーホルダーを覗き込み。
「あら、似てるわ」
「ちょっと!」
この不細工に何処が似てるのよ、と、ぎゃあぎゃあ横でわめき散らすアンジュを無視して、ノエルが静かに口を開く。
重ねて言うが、ノエルがこの組織「ホワイト」のリーダーである。
「皆、今年もよく無事に集まってくれた。早速本題に入らせて貰うが…」
一同、まだぎゃあぎゃあと言い合いをしている。
ノエルはコホンと咳払いを1つ。
「我々と敵対する組織「ブラック」が、今年も動きを見せている。その陰謀を阻止すべく…」
「もうみんな知ってるよ、ノエル。ヤツら今年は、ツイッターのオフィシャルアカウント作って言いふらしてるから」
ケーキを頬張りながら、アンジュは首だけをノエルの方に向ける。
大人なクロシェットとアダム、レンヌは既にシャンパンを片手にクリスマスソングを口ずさんでいる。
「ツイッター???」
「も、大変よ。最近ってさ、小学生でもスマホ平気で使いこなしてるからさー。多分、今年は相当動きにくいよ?」
アンジュの言う事は、最もである。
この「ホワイト」と敵対する組織「ブラック」が、毎年クリスマスイブになると、予告状を出すのだ。
「去年はまだツイッターやってなかったから。それでもネットで公表しちゃってね」
クロシェットが言った。
その横で、アンジュも頷いて。
「去年は、巨大クリスマスツリーを引き倒す、とか言っちゃってねー」
「そうね…去年はまだ個人サイトでちまちま予告を出している程度だったから、まだ知名度は低かったけど」
「今年はフォロワーが既に二万越えてるからねぇ…口コミって怖いよね」
アンジュとクロシェットの会話を、微動だにせずに聞いているノエル。
このリアクションは多分、会話の意味すら理解出来ていないんじゃないかと、皆は薄々感じていた。