面倒臭がりの異界冒険伝
「杏奈っ!!」
部屋の中では、何かを抱いて地面に伏した杏奈がいて、咄嗟に駆け寄る。
「……お姉ちゃん…どうして…。」
杏奈は煙を吸い過ぎてしまっている。
喋んなと言い置いて、杏奈の上体を起こして支えた。
とにかくここから逃げなければならない。
そう思い、出口を振り仰いだ時、ぶわっと熱気が襲い掛かり次の瞬間には完全に炎に出口を覆われていた。
無茶していいなら多分突っ切れないこともない。
しかし、それは悠奈一人の場合だけだ。
意識の混濁した杏奈を連れてとなるとそれは出来ない。というか、杏奈をそんな危険な橋を渡らせたくはない。
悠奈は逡巡(しゅんじゅん)して、そして覚悟を決めたその時、熱気が風に煽られた。
炎を巻き込んだ風が、渦を巻き悠奈達を囲う。
近づく気配もなく、寧ろ守っているような気すら感じる不自然な風は、室内から生じているようだった。
「なに、この風…は…。…というか、何なわけこれは。」
神妙な、けれど怪訝に顔を歪ませた悠奈は足元を見て今度は顔を引き攣らせた。
あり得ない。
地面が光っていた。悠奈達を囲うように綺麗な円を描いて。
その中には幾何学な模様や見たことのない文字が書かれていて、これではまるであれではないかと思う。
そう。よくファンタジーなんかで登場する…魔法陣。
それを連想させるにいい複雑な模様のそれがこの風を生み出していて、火を纏ったカーテンはバタバタと煩くはためくし、窓は今にも割れそうな程鳴っている。
終いには家の軋む音まで聞こえてきて、炎に囲まれたこんな状況で逃げなければならないのは変わっていないのに、思考を停止したくなった悠奈を誰が責められようか。