面倒臭がりの異界冒険伝
第一章 異界
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強烈な光が薄らいだのを瞼の裏から感じ取り、確認するようにゆっくりと瞳を開く。
ちかちかした視界がようやくぼんやり見えるようになり始めた時、パチンッと身体を包んでいたシャボン玉のような球体が割れた。
「…っ、いったぁー」
高い位置からというわけではなかったが、突然に落とされた衝撃で、しかもろくに防護できなかったせいで地味に涙目になりながら声を上げる。
なんなんだ、いったい。
痛みが若干引いてくるのを待って、のろのろと立ち上がった。
火事はどうなったのか、あの風や魔法陣はなんだったのか。
色々と知りたいことは山ほどあるといのに、最初に口をついたのは唯一つ。
「………ここ、何処よ?」
というものだけだった。
固い地面の上に立つ、あたしの視界には、見覚えのない薄暗い路地の風景が広がっていた。
しかし、脇に立ち並ぶ西洋を模した石造りの建物の合間からは、今いる場とは違い、楽しく酒を酌み交わす声と灯りが洩れ聞こえる声に、人はいるようだとと安心する。
だが、そこを横切っていく人の服は、悠奈が見知ったものと少し違うようだったが。
何と言えばいいのか…悠奈達の普段着と似ていなくもないが、その格好は何となく“西洋風、前時代平民コス”と言った体な気がする。
甲冑を纏っているものもチラリと視界に映り、一瞬どこぞのテーマパークかとも思ったが多分違うのだろう。
それは勘のようなものだが、皆平然としすぎている様子も気になる。
恐らくはこれが日常なのだ。
そして悠奈はこの現状に関する答えを直感すると、その答えに呆れ、目を眇めた。
あまりに受け入れがたい、現実味の欠片もない結論である。
思わず現実逃避をしたくなる気持ちは仕方ないことだろう。
だって、そうじゃないか。
こんなのは普通の常識人ならきっとあり得ない夢か何かなんだろうと突っぱねても可笑しくない状況なわけで。……うん、ほんとに、そうあって欲しいと今切実に思っている自分がいる。
「…ん……」
その時ようやく、気を失っていた杏奈が目を開けようとしていた。