面倒臭がりの異界冒険伝
しかしその数は異様にも二つ。
「…月が、二つ……?嘘…なんで……夢、じゃ…ない?」
杏奈のその様子を見て、やはり見間違いとか目の錯覚ではないのかと確信する。
まだ下の方にある赤く輝く三日月と、それより右の大分上の方まで昇っている満月に近い青い月。
そんな二つの月は悠奈達がいた世界には存在せず、代わりにあるのは金色を溶かし込んだような白い月が一つのみ。
杏奈にも同じものが見えているのならば、もう認める他ないだろう。
「はぁ…ま、月だけじゃないんだけど。」
杏奈が悠奈に視線を戻して、まだあるのっ!?と若干混乱気味だ。
「いや、うん、この路地の向こう…多分大通りかな。そこで人が着てる服装、ちょっと違うでしょ?……あとはほら、時間のとか?」
「そういえば…確かまだお昼過ぎだったよね……」
「そう。確かに昼。それも真昼間ね。だけど今は夜更けって感じで気温も夏の終わりか秋の初めってくらいに涼しいだけで寒くはない。第一雪も降ってないし。何かこの場所自体もRPGで登場しそうな“寂れた町”って感じもするしねー。」
「海外ってことも…ない、よね。そもそも月が二つある国なんて存在しないんだし…。でも、それじゃあ本当に…?」
「信じがたいけど。………あーそれともう一つ。」
「…?」
「杏奈、目の色…緑になってる。」
「……ふぇ?」
自分自身の変化には流石にどう反応すべきか戸惑っている…と言った体だ。
流石に信じきれないのだろう。当惑の滲んだ表情で悠奈を見ている。
ま、その件に関しては良くないがまぁ脇に置いておくとしても――当人も信じ切れていないようだし――あり得ない状況から生まれる不安で、重い空気が流れるのは正直避けたいところとわざとあっけらかんとした口調で口を開く。
「ま、ぐだぐだ言ってても始まんないし、体の異常が無いならとりあえず今日は休めるとこ探して、明日になったら観光でもしよーか。幸い、この世界の人たちは大体髪も目も色彩豊かそうだから別に目立つということもないだろーしね。」
それで、帰る方法を見つけよう。…だけど、それまではこの世界で楽しまないと。