面倒臭がりの異界冒険伝
この子に憂い顔は似合わない。
「お姉ちゃん……うん、そうだね。何だか少し楽しみ!」
杏奈は無理に…けれど少し好奇心の混じった笑顔で頷いて、悠奈の差し出した手を取って立ち上がった。
そして独り言のようにぽつりと呟く。
「お姉ちゃんが一人じゃなくて、よかった……。」
それが、聞こえた悠奈は杏奈を見て問い返す。
「へ?それ、自分がじゃなくて?」
「うん。だって、お姉ちゃん一人なら絶対、何としてでも帰るんだってならないでしょ?そしたら簡単に異世界でも何処ででも馴染んじゃって、まぁいいかってなっちゃいそうだから。」
確かに杏奈が一人だった場合どうしていいか分からず、きっと野垂れ死ぬことにもなりかねないが、悠奈が一人だったとしても面倒臭いからと帰ることを放棄しても可笑しくない。
だから杏奈は自分が足手まといにしかならないことを自覚していても、心の底から一緒でよかったと思ったのである。
悠奈も、その可能性は十二分にあり得るだろうと想像し、けれど肯定するのも複雑だったので、一応「そんなことなよー」と否定してみるが、説得力の欠片もないことはきちんと自覚はしている。
その時、ふと感じた視線に悠奈は、暗闇で視界の利かない道の奥を見据えた。
「……ねぇ、何か用?」
悠奈の発した声に、杏奈が困惑しながらその視線を辿ると、ふっと暗闇が揺れて、悠奈が感じた気配の主が出てきた。
杏奈がそれが人だと気付いたと同時に、ひっと息を呑んだ。
明らかに表で暮らしてる人間ではないだろうなと思える典型的な悪人の方たちだ。
見た目で言えば盗賊みたいな成り上がりな格好をしている。
本当に盗賊なのか、唯のコスプレ趣味なのかは知らないが。