面倒臭がりの異界冒険伝
「大人しくしてたら痛い思いはしねぇぜ?こっちとしてもあまり傷物にしたくねーしな。」
囲っている側の一人が気色悪い笑みを浮かべてにじり寄る。
「はぁ、人身売買でもするつもり?盗賊みたいな格好だと思ったけどどっちが本業なんだか。」
初っ端からこんな盗賊コス擬きを見せられたらゲームの世界にでもトリップしたかと疑ってしまうが、恐らくそんなものではない気がする。
だってここに来てすぐ襲われるなんて展開的に早すぎじゃないか。
これがリアルと思うのも実のところ微妙な心境ではあるが。
「よく分かったなァ。もちろん俺達は盗賊が本業だぜ?ただ、奴隷として獣人や嬢ちゃんたちみたいな上玉の人間を売った方が稼ぎになるんでね。」
そう答えたのはリーダーの方だった。
獣人?とわずかな疑問を抱きつつも取りあえず敵に集中しておく。油断大敵だ。
「つーわけだから嬢ちゃんも、抵抗しなけりゃ死ぬことはねーぜ?」
悠奈が余裕の割に抵抗の素振りを見せない態度に、男がうかつに手を伸ばした…その時。
逆にその手を引き寄せて、近づいてきたその体の鳩尾に思い切り拳を打ち付けた。
まずは一人と頭で数えつつ、一瞬呆気に取られ、すぐさま激昂に変わった男たち視線を移す。
「てめぇ、何しやがんだ!」
「大人しくしてりゃあ良かったものを…」
口々に言って、今度は潜ませていたナイフやら短剣やらの物騒なものを取り出してきた。
「お姉ちゃん…。」
ナイフを見て、姉が危険だと思った杏奈が声を掛けるが、それを意に介した様子もなく、わざと余裕綽々と言った体で話す。
「へいきへいきー。危ないからちょっと下がっててねー」