揺れる恋 めぐる愛
「どこへ?」

「とにかくついてきて……」

その魅惑的な笑みに囚われ、出かけることとなった。


営業先だろう応接室に通され主任の隣に立っていると……

細身の女性が入ってきた。

「お久しぶりです、社長……」

微笑みは主任にとって最大の武器なのだろう……

「もう~、佐々木さん。先週来たばかりじゃありませんか?」

「社長。1週間は本当に長いですね。

早く会いたいと思い、急ぎ資料と見積もりをご用意しましたが

お忙しい社長と次に許されたアポは1週間後……

本当に寂しかったんですよ?」

分厚い封筒を差し出した。社長は座りもせず封を開け、

中身の書類を1枚1枚めくりながら……

ふっと厳しく見える顔が緩んだ気がした。それからこちらを見て

「そういえば……

そんな季節?」

「はい。もうそんな季節ですよ社長……」

お互いに目を見ながら笑っている。

「そうね。どうぞお座りになって……

ところでお隣のあなた。お名前は?」

私は立ち上がり頭を下げた。

「はい、藤木野乃花(ふじき ののか)と申します」


「そう。久々ねぇ~。

この人はこの微笑みと口先で私たちから金を引き出すたらしよ。

でも掠め盗られたって思わせないことが何よりの天才たるゆえんね。

しっかりその目であなたも盗み取りなさい」

「はい……」


こんな感じで私は週に1度、主任の外回りに連れて行かれることになった。
< 13 / 110 >

この作品をシェア

pagetop