揺れる恋 めぐる愛
車が信号で止まり、口元を歪ませながら主任が私に向けた一瞬の視線に、

ゾクっとするものを感じた。

営業スマイルじゃない主任の微笑みは、澱みを纏い寂しげに見えた。


会社で見たことのない主任。昔、どこかで感じたことのあるこの空気に

飲まれそうになる……

慌てて視線を逸らし首を何度も振った。

間もなく車が走り出して

「これじゃまるで口説き落しているみたいだな。

元々希望じゃない外回りに連れまわされるだけでも不快だろうに……

すまなかった」

「いえ。ご期待には沿えなくてすみません。

でも本当にいい勉強させてもらってます。ありがとうございます」

「嫌な気分にさせたはずなのに、ありがとうなんて言われたら

もう何も言えなくなるじゃないか……」

お互い沈黙したまま、車は加速して目的地方面に走る。


「藤木君?もうじきだが……

家のそばまで行こうか?」

「いえ駅で大丈夫です。近くにある郵便局にも寄りたいので……」

「そうか……

わかった」

主任は親切心で言っているのはわかっていたが、

予定通り最寄駅まで送ってもらった。

上手く言えないけど……

自宅のそばまでは来てほしくなかった。


駅のロータリーに車が入り止まる。

「お疲れ様です。わざわざありがとうございました」

「お疲れ様」

私はすべてを断ち切るように車を降りた。
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