揺れる恋 めぐる愛
今日は小さな工場の事務所。

裏にある駐車場に車を止め、表に回っているとき……

建物の中から大きな声が聞こえてきた。

「……は、今から3日後に追加で出荷なんて……

どうするつもりなんですか?」

「……」

「課長が寝ずに全部やるんですか?

客先の無茶ぶりにいい顔して、ただはいはい言うのはやめ……」

私たちがガラス張りの玄関の前までたどり着くと、その声は突然止んだ。

主任がドアを開けようとすると中から女性が歩いてきた。


「15時に宮地様とお約束させていただいている佐々木です……」

主任は入り口で応対してくれた女性に頭を下げながら……

事務所の奥の方に視線を流している。

私は主任の隣に立ち一緒に頭を下げた。

「課長……

お客様です」

振り向きながら男性の方へ声をかけ、

「こちらに……」

と応接室らしきところに通された。

ドアがぱたんと閉まり二人きりにされる。椅子の前に立ったまま

「さっきの声……」

私は小声で隣の主任を見る。

「そうだな、たぶん……」

と話していると再びドアが開き、

先ほど声を掛けられていた男性が部屋に入ってきた。

「お待たせしました。どうぞ……」

にこやかに微笑みながら手で椅子を示した。


「ありがとうございます」

お互いに一瞬目を見てから主任が座り私は後に続いた。
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