揺れる恋 めぐる愛
同時に手を掴んだ主任が、大きく目を見開いてこちらを見ていた……

しばらく時間が止まったようにお互いが見つめ合い、

目の前の顔がゆっくり口元を歪ませる。


優しさを孕んだその黒い瞳で包むように見つめられて思わず後ずさる。

その瞳は……

勘違いだと思いたくて強く瞬きしたその後、

優しさが身も凍るような冷たい空気に変わり……

口元には意地悪な微笑みをたたえていた。

今まで見たことのない主任。

その表情に私がこれでもかというほど目を見開く。


突然昔の忌々しい記憶が心の奥底から引きずり出され……

「君、男がいるのに、俺の事……

好きなんだね」

潤んだ漆黒の瞳。かすれた低い声で私に聞いた。

唐突に何を言っているのだろう……

そこには、私の知っている主任はいなかった。

吃驚して固まる私を強引に引き寄せ、耳元に

「俺は……

だよ」

そうつぶやいたかと思うと、手を引き連れ去る。

普段の私なら、こんな時絶対そのままついて行ったりしない。

この時はアルコールも入っていて、無防備だったのだろうか?


そして結局私は……

この男の掌に堕ちた。

地元に残してきた彼氏がいるにもかかわらず……


私は会社で彼氏がいるような素振りをしただろうか?

なぜ、主任がそれをズバリ言い当てたのかさっぱりわからなかった。
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