揺れる恋 めぐる愛


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声を押し殺して静かに泣く女を抱きしめて、

背中をさすり慰めてつむじに口づける。

この温もりをもう手放したくない。

唇に触れたくて、顔を上に向かせようと顎に手を添えた。

それから視線をゆっくりと合わせ……

身体がビクリとはね、ぎょっとした。

「藤木……

どうして……」

俺を見上げながら悲しそうに口角を少しだけ上げる彼女。


「大希さん」

俺は名前を呼ばれ目を見開いた。

混乱しながら首を左右に振り……

これは絶対に夢だという結論に至った。

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瞼が上がり、周りは暗闇。

ゆっくりと視界を確かめようとしたら、目の前は板。

痛む体を起こして見渡すと、自分の部屋の玄関先だった。


どうやってここまで帰ったのか……

覚えていない。

別れたところまではなんとなく覚えてはいるが……

帰巣本能が働いたのだろうか?

こんなときでも、ここに戻ってきてしまう自分の愚かさに笑いがこみ上げる。

それでもまあ、たどり着いたのだから……

ラッキーなのだろう。

そのままベッドルームに向かい、夢も見ずただ眠った。
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