揺れる恋 めぐる愛
それは、大学時代にはまった私の好きなイラストレーターの画集だった。

ずいぶん昔の本で……

素敵なのだが、絶版で再版の予定はない。

学生時代は古本屋でよく探していたが、

一度もお目にかかったことはなかった。

「わぁ――。先輩、これすごい!

そうそう、これず―――っと、欲しかったんだよね。

でもすっかり忘れてた。いったいどこで見つけたの?」

私は画集を開き、ぺらぺらとめくる。

「なぜかね、近所の古書店。あれだけ探したのに……

結局は灯台下暗しだったんだ」

「そうなんだ。これ1冊だけ?」

「もちろん。だから見た瞬間、嬉しくって小躍りして……

即買いした。

おかげで貧乏になっちゃったけど……」

「ありがとう。なんか、いろいろ大変たけど……

元気出ちゃった」

「よかったぁ。卒業する前から欲しがってたもんね。

でも、仕事そんなに大変?聞くだけしかできないけど……

話してみて?」

先輩は小首を傾げながら、優しい笑みをこっちに向けた。

その表情がかわいかった……

先輩のこの首をかしげるしぐさが……

とっても好きだった。

安心する……

暖かい気持ちが心に満ちた。


二人でいるだけで、そこには穏やかで優しい時間が流れた。
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