揺れる恋 めぐる愛
「お前……

玄関の扉は閉まっていたが、鍵開いたままだったぞ?

不用心だから気を付けろよ。まあ、おかげで入れたが……」

戸口からこちらに向かって歩み寄り、

さりげなくベッドの淵に座って、私の額に右手が伸びてくる。


その自然なしぐさに……

一瞬どきりとしてビクつくと同時に、ガンガンと頭痛が襲ってきた。

額に触れた瞬間少しピリッとしたように感じたが、

その掌は冷たくて気持ちよかった。


「入ってみれば、下着姿でソファーに倒れて……」

心配そうに私の顔をのぞきこむ。

「どうだ?少しは楽か?何か欲しいものは?」

「どうして……」

「どうして?」

「ここを知ってるの?」

私は弱々しくたずねた。

「ああ、ここの事か。その気になればなんてことないだろう?」

主任は苦笑しながら私の髪を大きな手で優しく撫でた。

私は瞼の重さに負け目を閉じた。

「どうして……」

「まだ聞きたいことがあるのか?」

「どうして来たの?」

「今週調子悪そうだったろう?

あれから、結局悪化したのか?」

「なんで……」

「なんでだろうな。視界の端にお前が入るとつい、目だけだが追いかけてしまう。

食堂でも、ホールでも、休憩室の廊下でもな。今週は月曜から、顔色が悪かった……

遠目でもわかるほどにな」
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