揺れる恋 めぐる愛
あの晩先輩の家に寄り荷物を取り、駅まで送ってもらい帰った。

駅までの道すがら先輩が口を開こうとしたので

「もう、何も聞きたくない。話すなら、ドアを開けてここで降りる……」

そこまで私が言い、こういう時の私は何をやらかすかわからないと

いうのは先輩にはわかっていたはずなので、

それからの車内はただ重苦しい沈黙に包まれた。


私は、ただふつふつとわきあがっては弾ける怒りを

喉元で抑えるのが精一杯だった。

でも先輩を怒鳴るのは筋違いだ。もうこれ以上は言い争いたくない……


車が駅に着いたとき、先輩は突然車にロックをかけ、

わたしの正面に覆いかぶさる。

「ののか、どうして何も聞いてくれないの?

どうして……」

私は膝に荷物を抱えたまま俯き、何も答えなかった。

「せめて指輪……」

先輩は私の右手を握りしめたまま、

左手で荷物を握る私の手を取ろうとした。

私は両手を後ろ手にして引っ込め先輩を見上げる。


「先輩……

ごめんなさい。

今はとにかくこのままで一度……

帰して」

断固とした態度で言うと、握っていた掌を力なく解いて

それ以上は無理強いしなかった。

先輩と付き合って初めて、狂うほどかき乱された。

冷静に考える自信がなくて、とにかく……

とにかく一人になりたかった。

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