揺れる恋 めぐる愛


大希目線

寒くて早く目が覚めた。

それでも少し眠くて目を閉じたままで横になる。


きのう流し見ていたTVで紅葉のいい季節だと言っていた。

そうか、もうそんな季節なんだなとシミジミ思う。

たぶんあそこも……

きれいだろう。

そういえば母さんの墓参りに行っていない。

物心ついた時には大きなお屋敷に俺と住み込んで働いていたが、

ある時から今住んでいるマンションに二人で住む事になった。

どこにそんなお金があるのかわからなかったが、母がそれ以降働くことはなかった。

それから、紅葉のきれいな季節に、突然自らの手でこの世とおさらばしてしまう。

しばらく、その現実が受け入れられず、わけがわからなかった。

俺は唯一肉親だと思っていた母を、この世につなぎとめることすらできない程度の存在だと思い知らされ、

子どもなのに、一人ぼっちになった。

そして、初めて自分の置かれた立場を最悪の状況で知らされ、

その後の人生を選択することを強要された。


やめよう……

不毛だ。

こんなことを考えても、母はもういないし何も変わらない。

俺は俺自身が選んで生きてきた。

誰かの思惑に巻き込まれたとしても、

それでも俺は俺の思うように生きている。
< 89 / 110 >

この作品をシェア

pagetop