モントリヒト城の吸血鬼~一夜話~

大嫌いな過去の自分の
象徴である、朔夜という名前。

沙羅にその名前を
呼ばせているのは、
懐かしさに抗えないうちに、
自分を慕う彼女がすっかり
その名に親しみを
感じてしまったからで。

だから、あの凍夜と姫乃に
大嫌いな本当の名前を
呼ばれて喜ぶなんて。

そんなこと、ぜったいに、
あるわけがない。

兄姉を慕っているからとか、
そんなふたりに呼ばれると、
名前への嫌悪以上に、
ついつい安らいでしまうとか、
そんなこと、ぜったい、
あるわけない。

必死に否定する朔夜の顔を
沙羅がことさら嬉しそうに
見つめるものだから、
朔夜の顔はとうぶん
赤い色のままだった。




< 14 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop