モントリヒト城の吸血鬼~一夜話~


そんなことを考えていると、
あきらかに機嫌を損ねた様子の
姫乃は、ぷいっとそっぽを
向いて、歩きだしてしまう。

「…姫乃。」

「なによ。」

「沙羅がどうして耳当てや
てぶくろをしたがらないか、
教えてあげようか。」

姫乃の気を引こうとするなら、
妹の話題ほど効果のあるものはない。

凍夜としては、自分以外に
姫乃の関心が向くのはいささか
おもしろくないのだが、
目論見どおり姫乃は喰いついた。

「知ってるの。」

「機嫌を直すなら、
教えてあげるよ。」

「…。いいわ。もう、
怒ってないから、教えて?」

とてとてと、凍夜のそばに戻ってきて、
凍夜の袖を掴み、首をかしげて
答えをねだる。

その仕草がどれほど
可愛らしいのか、
本人に自覚がないのだから
性質が悪い。

そう思いながら、凍夜は
姫乃のボンネットをはずして
両手のひらで彼女の頬と耳を覆う。

好奇心が先だっている姫乃は、
まだ、恥ずかしがることもなく、
大人しく凍夜にされるがままだ。
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