モントリヒト城の吸血鬼~一夜話~
「そんなに残念がらなくても、
部屋に戻ったらいくらでも
好きなところにしてあげるから。」
「っっ!今日はもう、
部屋にもどらない!!」
「何言ってるの。そろそろ
戻らないと風邪ひくよ。」
凍夜は真っ赤になって
抗議する姫乃の首に
ボンネットのひもを結び、
背を軽く押して歩きだす。
しぶしぶ従いながら歩く
姫乃の目に、手袋もつけず
コートのポケットに
突っこまれた凍夜の手が
とまった。
「…。」
そっと自分の手袋の
片方を脱ぐ。
雪を握ってすっかり
冷えた自分の手。
さっきの話の後で自分から
手をつなぐのはちょっと
恥ずかしいかしら、と
思いながらも、凍夜の手を
握ってそろっと顔色をうかがえば
目のあった凍夜は穏やかに微笑んだ。
「…あったかい。」
繋いだぬくもりの心地よさは、
姫乃の恥ずかしさなど
あっという間に溶かしてしまった。