モントリヒト城の吸血鬼~一夜話~


姫乃をいちばんキレさせるのは
凍夜だが、なだめるのも
凍夜がいちばんだな、と思いながら、
かまいませんよ、と慣れた返事を返す。

なんだかんだと言っても、
姫乃は凍夜のそばに
いるのが好きなのだ。

だから、凍夜が素直に譲歩すれば、
姫乃もそれほど意地を
張ったりはしない。

二言三言と姫乃の耳元で囁く凍夜に、
姫乃は少しだけ拗ねたようすのまま、
同じように何か囁き返した。

その目には、もう、涙は溢れてこない。

そんな二人が出ていくのを見送った沙羅が、
最後の一口になったマフィンを
口にしてつぶやいた。

「朔夜様…。」

「なんです?」

「今日から朔夜様のお部屋で
寝るおはなしは、無しになって
しまったの?」

ちょっと残念そうに小首を
傾げて沙羅がたずねた。
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