幸せをくれた君に
彼女が……理沙が勤めている会社名だった。

『麻野』なんて他にもあるようで、意外に珍しい名前だろう。

たまたま一致した同名会社などありえるのだろうか。


「どうかされましたか?」

俺の動揺が顔に出ていたのだろうか、久賀が不思議そうな顔をしながら、俺に名刺を差し出している。

「いえ、別に……」

まさか、今の状況で聞けるわけも、言えるわけもなかった。

そして、彼は俺に名刺を渡すと、穏やかな笑顔を見せ、社長とともに出ていった。



俺は一人、社長室に取り残される。

社長が『すまないが、保険契約の見直しをしたいので、一度、家へ帰らせてもらうよ』とか、なんとか俺に言っていたような気がするけれど、あまり覚えていない。


俺はただ
『麻野保険会社
営業部 久賀 稔』
と書かれた名刺を何となく何となく……握りしめていた。
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