jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
気分が落ち着いてきたので、香さんに感じたことを伝えた。
「香さん、わたし病院に行ってみる」
心配そうな顔がわたしを覗いてきた。
「体調が悪いのか? そうだ! 今、風邪が流行っているんだった。安心して、蕾。僕のディープなキスで、ウイルスを吸引してあげるから」
(いや、それ無理でしょ!?)
純粋な香さんの気持ちを傷付けないように、心の中で1人ツッコミを入れた。
(違うんだよ・・・・・・香さん。たぶんこれはね・・・・・・)
「勘違いだったらごめんなさい。たぶん、新しい命がここに・・・・・・」
わたしは、まだぺったんこのお腹に手を当てた。
わたしたちが結ばれる瞬間、マロンは、運命を司る神に問われたのかもしれない。
このまま動物として存在するか、人間として生まれ変わるかを。
そして、動物のマロンはこの世を絶ち、天に昇るのと引き換えに、人間の子としてわたしのお腹に命を宿したのかもしれない。
そんな神秘的なことに気付いたわたしは、嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ、香さん。病院に行こう! きっと、マロンがお腹の中にいる」

結果は、思った通り、おめでただった。

このときばかりは、運命に感謝した。
いや、今までの起きてきた苦しいことも全て意味があったのかもしれない。
わたしは秀斗と、香さんはお嫁さんと上手くいっていたなら、わたしたちは出会うことはなかった。
もし、出会っていても、店員と客としての関係で終わっていただろう。
わたしたちを繋ぐ赤い糸は、毛糸よりも太くて頑丈な、赤い鎖なのかもしれない。




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