jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
お婆さんの瞼はいつの間にか閉じられていた。
「なんだい? お祝い代わりに、願いを聞いてあげるよ」
わたしの望みを告げた瞬間、お婆さんはどんな表情に変化するのか、非常に楽しみでたまらなくなった。
「わたしをこの店の跡取りにしてください。もう会社は辞めました。どうかお願いします。愛する香さんを育ててくれたお婆さんを、わたしは愛していますから」
わたしは深々と頭を下げた。
お婆さんが何も返事をしてくれなかったので、わたしは心底不安になった。
(失敗したかな・・・・・・?)
恐る恐る顔を上げてお婆さんを見ると、零れ落ちるほどの涙を溜めていたのだ。
「お・・・・・・お婆さん!? 」
ポケットから深緑のシルクのハンカチを取り出すと、乱暴に拭き始めた。
処理し終えると口を歪めて言った。
「初めて愛の言葉を口にされたのが、こんな小娘だなんてな・・・・・・」
お婆さんは誰かにストレートな愛情を貰うことができなかったのだろうか?
だけど、わたしも少し似ているのかもしれない。

香さんには最近伝えたのだが、両親はわたしが幼いころに離婚した。
詳しい理由は教えてくれなかったが、ただお父さんに好きな人ができたことは分かった。
それが原因で喧嘩になったんだろう。
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