jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
わたしも同じことを考えていたなと思い返していた。
秀斗との結婚を無理やり考えていた頃だ。
秀斗といると、何故か自由が欲しくなって、逃げ出したくなっていた。
今思うとそれは、寂しさと情を愛だと勘違いしていたからからだろう。
偽りの愛を自ら創り出し、そのレールに乗っかっていることで安心感を得ていたのだろう。
香さんや志音と出会ってから、その想定は確定へと変貌を遂げたのだ。
(香さんだったら、大丈夫だよね?)
それがわたしの中で出た結論だった。
だけど、歪な始まりに、妙な過程、この先はどう進むんだろうか?
不安にも駆られる自分が存在することに初めて気付いてしまった。
抱えたくない思いを、無理やり抱いてしまった。
だけど、わたしがこの先抱くのは、彷徨う迷子の愛ではない。
(わたしが抱くのは、香さんとの子供だ!)
そう伝えようとしたとき、携帯の着信音が鳴った。
「ごっ、ごめん、香さん。ちょっと待ってね。お婆さんかもしれない」
その返事が嘘にならないことを祈りながら、部屋を出た。

携帯の画面には‘志音’と表示されていた。
(どうして・・・・・・?)
会話する勇気が出なくて思い悩んでいるうちに、電話は切れてしまった。
絶ち切ったはずの志音との思い出が、脳裏にフラッシュバックされていった。
(あとで、メールならしてもいいよね・・・・・・?)
そう思いながら後ろを振り向くと、香さんが立っていた。
「お婆さんからだよね?」
「あ・・・・・・うん。途中で切れちゃって。あとで掛け直すよ。大切な話の途中だし」


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