jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
「もちろん、わたしはそのサークルに入部した。わたしの理想そのものだったからね。そこの部長が香だった。驚いたことに、部員はたった3人しかいなかった。しかも、残りの2人は幽霊部員。たまにやってきては、ほとんど何もしないで帰る。俺様的な態度の香は、人のことなんてどうでもよかったんだろう、いつも作業に没頭していたよ。わたしには、優しく教えてくれるものの、どこか馴染みにくいオーラが漂っていたし、何たって行動も発言も珍奇なんだよ。だけど、だんだん心奪われていった。それが恋になのか、技術になのか、そのときは分からなかった。だけど、香が心で見ているのは、物ばかりで、わたしには見向きもしなかった。なぜか、悔しかった。どうして、わたしを見てはくれないのかと。ついに、わたしは危ない駆け引きに乗り出してしまった。香が危険な大型の機械を使っていたとき、電源をONにしたまま机の上に置いたんだ。そのとき、わたしは長い髪をその機械の刃に近づけた。セピア色の髪は、バッサリと音を立てながら落ちていった。驚いた香が機械を咄嗟に掴んだとき、予想外の展開が訪れた。わたしの右手の人差し指が飛んだんだ。わたしは、事故で自慢の髪を失ったことにして、香に罪償いしてもらおう、香に条件をつけて付き合ってもらおうとした。そんな子供染みた考えをしていたのに・・・・・・。後半は予期もしていなかった大惨事だった。案の定、香は罪償いとして、一生わたしの面倒をみることにした。わたしは痛む心を無視して、彼と過ごした。だけど、最終的に、香は心からわたしを見てはいなかった。そして、それはわたしも同じだった。惚れこんだのは彼ではなくて、彼の技術だった。気付いたときには、香には絶対負けたくないと闘志が燃えていた。追い越す、上をいく、絶対に! そうしたら、わたしのことを別の意味で見るだろうと。わたしたちがぶつかり合うのは、愛ではなく、技術だ!」