jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
普段は奇矯な悪魔で、たまに優雅な態度を見せる、そのギャップはわたしを虜にする。
香さんを構成する核の部分が、今、剥き出しになっているときだ。

わたしは、基本的に男性が苦手だ。
人間不信ではないので、心は許す。
だけど、体だけは絶対に許せない。
拒否できなくても、確実に心の声は悲鳴をあげている。
嫌気の念が、わたしを支配する。
それは、厭世の気持ちさえも生む。
たとえ、行為がなくなっても、その人物とディープに交わりたいとは思えない。
深奥な部分にナイフを突き刺されたのだから、記憶を司る神経が図太く覚えている。
だから、ずっと求めていた。
運命にすがっていた。
全てを許せる人に出会いと・・・・・・。
香さんと出会った瞬間、一目惚れした。
そんな体験、小説の世界だけかと思っていた。
あったとしても、わたしには到底巡ってこない幸運だろうと。
触れても、嫌悪感や恐怖に浸らなくていい。
皆が当たり前に感じているその幸せが、わたしにとっては、群を抜いた至高の幸せなのだ。
だけど、欲というのは、それでは収まらないものだ。
欲気が溢れ出し、欲情に繋がり、独占欲へと到達する。
この強欲三角形が、わたしを支配している。
きっと、香さんも同じ。
だけど、わたしが未熟な平面三角形でも、彼は大人な三角柱だろう。
奥行きがある、わたしを愛するからこその、自由をくれる。
おそらく、それが、心から愛していない人から頂戴したものだと、有難く感じてしまうんだろう。
きっと、結婚しても、幸せ探しをしてしまっているだろう。
だけど、香さんは違う。
愛している、誰よりも・・・・・・もうこの人しかいない。

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