jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
感傷にふけって茫然としていると、秀斗が恐る恐る口を開いた。
「リストラされた・・・・・・。朝は、リストラされる可能性があると宣告された。だけど、今、それが確定したんだ・・・・・・」
秀斗は、将来有望だった。
職場での話を聞いている限り、仕事は完璧にこなし、人望も厚い存在だと納得できた。
だけど、どうしてリストラなのだろう?
「どうして、秀斗が・・・・・・?」
秀斗は俯いたまま、答えた。
「真実は教えてもらえていないよ。自慢するわけではないけど、上司には、時期課長だと言われ、そして社長からは、いずれ部長候補となるだろう言われた。だけど、たぶん本当にただの候補だったんだ。部長の息子が入社してきた。部長は、社長にどうにか言ったんだろう。だから、今となっては、邪魔な存在なのさ。金と権力で動く、上の組織とはそういうものさ。僕が上に立ったら、そんな会社を変えようと思っていたよ。だけど、しょうがない・・・・・・。自分を支えるだけで、精一杯になってしまった。誰1人、幸せにする余裕もないんだ。僕は落ちこぼれだ・・・・・・」
わたしは、返す言葉が見つからなかった。
秀斗とは、生きてる世界が違いすぎる。
荒波に揉まれながらも、真っすぐに進もうとする秀斗に、わたしごときが掛けられる言葉なんて、一言もあるわけがなかった。
そのとき、千砂斗さんの怒号が飛んだ。
龍の雄たけびを想わせるような、迫力だった。
「甘ったれんじゃないよ! お前はお前だろう? 他人なんて、世間なんて、どうだっていいじゃないか! もっと、自分の足で立ちやがれ! 男だろう! もっと攻撃的に生きやがれ! 蕾の元彼ってのは、耳に挟んでる。見返してやるくらいの勢いってのはないのか? そろそろ、お前だって幸せになりたいだろう? 前へ上へ進め!」


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