jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
わたしは、上着を取り去り、香さんの甘い腕から抜け出した。
そして、お婆さんの元へと向かった。
お婆さんは、幸せそうな笑みを浮かべていて、ある1枚の写真を握っていた。
その写真は、店の外で撮った集合写真だった。
『jack of all trades 』その店名と共に、街の皆、友人、わたしと香さん、そして、わたしに抱かれた真論、全員が揃った写真。
(お婆ちゃんも写りたかったよね?)
そう問いかけると、心の中でお婆さんが答えたような気がした。
(わしは、かまわんよ。見れただけで十分だ)
わたしは言った。
(お婆さん、愛しています。今までありがとう。これからも見守っていてね)
そして、お婆さんの冷たくなった頬を撫でた。
(ありがとうよ・・・・・・)
そんな声が聞こえた気がした。

お婆さんのお通夜も葬式も無事終わり、香さんとわたしは、真論を抱き締めて眠りについた。

その夜、可笑しな夢をみた。
お婆さんが、店内の物品をトラックに乗せたあと、微苦笑を浮かべながら言った。
「傍に置いてくれ。わしも傍にいたいのじゃ」
そう何度も繰り返し呟いていた。
(そっかぁ、お婆ちゃん・・・・・・。それは、伝えそびれた遺言ね。大丈夫よ。この夢、忘れないから、安心しておやすみなさい・・・・・・)
わたしは、夢と現実の狭間で、ある計画を立てていた。
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