jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
お婆さんが昇天してから、1か月が過ぎようとしていた。
『jack of all trades』 の隣から、聞き慣れない音が響いてくる。
その音は、普通ならノイズだと思われるが、わたしたち家族、中でもお婆さんが1番喜ぶ音だ。
私たち家族は、新店を形作る基盤となる骨組みを微笑ましく見ていた。
そう、隣に、ペットショップを移転OPENさせることにしたのだ。
『jack of all trades』は、通路の1番端にある。
隣は、小型の店舗ならば、2軒分が建てられるほどのスペースが開いているのだ。
『ペットショップ・ジュワーノ』も、それほど大きい店ではないので、1軒分のスペースを利用することにした。
工事が始まって4週間ほどが経ち、今は土台完成間近といった感じだ。

3時頃、志音がわたしの元を訪れた。
『jack of all trades』の店内には、結婚式に使用されたテーブル1つと、椅子5つを残したままにしている。
今となっては、いつ、誰が来て、お茶することになるのか予想がつかないからだ。
そして、台所には、ヨーロッパ製のブランニューなティーカップが並んでいる。
「千砂兎さんと秀斗が旅立って、もう数週間が経つんだね。忙しいのか、あまり連絡も来ないし、何だか寂しく感じるな」

< 144 / 159 >

この作品をシェア

pagetop