jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
ゴツゴツした髑髏の指輪が、小花柄のティーカップにカツンと当たった。
「当たり前だ。スパルタ教育の真っ最中だから」
志音は、ストレートティーを香りごと味得するかのように、軽く目を瞑って飲んでいた。
「確かに・・・・・・」
鞭を持った千砂兎さんに追い掛け回されている秀斗を想像してしまったわたしは、居た堪れない気持ちになった。
(だけど、これも秀斗の道か・・・・・・)
「悲しい顔する必要はない。あいつらは楽しんでいる」
志音は仏頂面なことが多いが、たまに可笑しなことを考えているときは、悪戯な笑みを浮かべる。
(その笑顔で接客するのかな?)
そう思うと、怖いような、美しさに圧倒されるような、何とも言えない微妙な気持ちになった。
志音は、2人のことを知り尽くしているかのような態度だった。
「何を楽しんでいるの? まぁ、確かに気は合っているよね。わたしには、あまり連絡が来ないから、詳しいことは知らないの」
志音の手元で重なった指輪とカップが、地獄絵のように見えるのはわたしだけだろうか?
千砂斗さんと秀斗を表しているかのようだ。
こちらの世界では、すでに、骸骨は花畑での遊楽を終え、所定の位置に戻されたが、あちらの世界は、いったいどう進行しているのだろうか?
「秀斗の鶏の鳴き声は、第1段階のプロポーズだ」
わたしの歴史書に名が残りそうな名場面を思い出し、『いろんな意味で』と『け・・・・・・けけけけけっこ』が脳裏でこだました。

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