jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
志音は、唇の猫糞(ネコババ)に成功した親指を、自分の唇へと触れさせた。
そして、賞玩するかのようにペロリと舐めた。
わたしは、志音が大蛇でも怖くない。
ほぼ毎日連絡をくれ、休日は真論の世話を手伝いに来てくれる。
優しい親友・・・・・・いや、親友を通り越した心友とでも言っておこう。
志音や千砂兎さんのおかげで、神様にも秘密な乙女心を、わたしは保有できている。
トキメキをオブラードで包みながら、感謝し続けたい。
「ご馳走様、蕾。これからもいただくよ」
そう言って、テーブルの上に紙袋を置いた。
「これは何?」
「あぁ。蕾の入れた紅茶に合いそうなお菓子を作った。お礼だ。あと、美容室を変えることにした。ただ、それだけ」
一方的に言い放って、店を出ていった。
「ちょっ、志音ー!!」
もう、志音の姿はなかった。
これは、別れを意味するのだろうか?
そう思うと、涙がこんもりと溢れてきた。
(嫌よ・・・・・・皆いなくなるの?)
紙袋の中に入った箱を開けると、薔薇の砂糖漬けとオレンジピールが混ぜられたパウンドケーキが入っていた。
これを作るために、志音はいつも紅茶を考えるようにして飲んでいたんだろう。
(志音、とっても良い香りがするよ・・・・・・)
ケーキの上に1枚のカードが置かれていた。
『周りがどう変化しようと、わたしには関係ない。あなたの傍にいる。永遠に』
甘くほろ苦い香りが、わたしの心を鷲掴みにして離さなかった。

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