jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
手が器用な人は、頭の回転も器用。
その回路を通って動かされた舌は、もちろん器用だった。
すなわち、この人は成すこと全てが器用なのだ。
貪られるような強い刺激と、遊ばれているような軽快な刺激が、舌の生ぬるさを通して肌に溶け込んでいった。
わたしの手は腕から震え出し始めた。
(もう、カレーなんてどこにもないよっ・・・・・・)

しばらくして、香さんは気が済んだのか、あっけらかんとした様子で言った。
「あぁ、美味しいじゃん。このカレー」
そっとわたしの手を離すと、お皿を探し始めた。
(掴めない・・・・・・この人・・・・・・)
香さんの広い背中を見つめながら、いつもとは違う雰囲気に戸惑いを感じた。
どうして、今日はこんなに大胆なのか?
エプロンがいけなかったのだろうか?
真実が分からないせいで、興味と焦りばかりがわたしを支配していた。

無事、テーブルの上にはカレーライスとサラダが並べられた。
香さんの部屋は1階とは違って、シンプルだ。
ベージュで統一され、余分なものは一切置かれていなかった。
必要不可欠な家具に、パソコンとラジオ。
テレビを置かないのは、連続ドラマにハマってしまうと、仕事が手につかなくなるからだそうだ。
ありがたいことに、ベットは別室にあるようだ。

エプロンを外して、座布団の上に座った。
トイレから戻ってきた香さんも腰を下ろした。
(さて、食べよう)
「いただきま~す」
わたしは手を合わせたあと、スプーンでカレーを食べ始めた。



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