jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
一瞬、香さんの顔に妖艶な笑みがこぼれたような気がした。
「ありがとう。蕾のためなら、何だってできるさ。だけど、蕾の力を借りなくちゃいけないけど、いいかな?」
嫌な予感は的中したようだ。
香さんの願い事に‘尋常’が存在することは極わずかだ。
しかも、今回は、何やら大掛かりな目標だし、苦しみだって味わうことになる。
ということは、その苦しみを拭い去る役割がわたしなので、おそらく、香さんと比例してわたしも大いに苦悶することになるかもしれない。
(たいした頼み事じゃありませんように・・・・・・)
綺羅星に向かって、心底からそう願いながら、香さんの発言を待った。
生唾がゴクリと音を立て、背筋には悪寒が走った。
「ちょっと、この押入れの中を見て」
香さんが部屋の中にある押入れを開くと、信じられない光景が目に入った。
いや、目に入れたくないような、入り切らないような、そんな光景だった。
押入れの半分が、様々な種類の煙草で埋まっていたのだ。
しかも、きっちり整頓されて並べられているので、まるで、コレクションのようだ。
「か・・・・・・香さん、いったい、どれだけ吸っているの!?」
頭をポリポリ掻きながら、香さんは答えた。
「う~ん。そんなに吸わないよ。欲が満たされないときに吸うんだ。蕾に出会う前はほとんど吸っていなかったんだ。ただ、集めるのが楽しかっただけ。だけど、蕾が夜に僕を置いてきぼりにするからさ、つい欲求不満になちゃって。いつの間にか、蕾が帰ったあと、1本吸うのが日課になったんだ。」


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