jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
どのくらいの時間、うたた寝していたんだろうか?
香さんの一言で目が覚めた。
「蕾、調子はどう?」
ゴットハンド・マッサージ師、香から開放された肩を、上下に動かしてみた。
(軽い! 肩に貼り付いていた鉄のシップが剥がされたみたい!)
回りくどい表現だが、要するに、シップや磁気よりも効果があるという意味だ。
「すごく楽になった。香さん、ありがとう!」
壁掛け時計を見ると、マッサージ開始から、1時間ほどが経っていた。
(香さん、疲れているだろな)
労いの意味を込めて、わたしが演じられる最高の表情と仕草で振り向いてみた。
(!?)
しかし、香さんに疲れた様子はさほど見られず、そのかわり、充実感に満ち溢れた表情をしていた。
(わたしの肩が良くなって、嬉しいのかな?)
そう思ったが、1つ腑に落ちないことがあった。
なぜか、香さんの唇がいつもに増して赤く、少し腫れていたのだ。
赤いというより、もっと濃い紅色だった。
「蕾、可愛いね。いつでもマッサージしてあげるよ」
包み込むような優しい微笑みに夢中になっているわたしは、唇の色なんてどうでもよくなった。
「うん! いつでもしてくれたらいいよ。助かるな~」
きゃぴきゃぴ浮かれたわたしのテンションに同調するように、香さんは喜悦の色を浮かべて言った。
「約束だよ。もう、絶対に断れないからね」
(どうして、断る必要があるんだろう?)
そう不思議に思いながら、珍しく天使のような香さんを見つめているしかなかった。
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