jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
中にある時計は赤で、数字や針は黒だった。
その隣に金色のオルゴールが設置されていた。
意外だったのは、アクセサリーケースのように、中が布で加工されているわけではなく、木製のままだったことだ。
「このメロディー、初めて聞いた」
バラードではあるが、ミザリーに濡れるような曲調ではなく、ゆったりとしたハ長調のチアフルな曲調だった。
しかし、途中途中で問いかけてくるような切なさを感じることもできた。
「これは僕がパソコンの中で作曲したものを専門店で形にしてもらったんだよ。あとは、オルゴールキットなんかを参考にして、手作りの木箱に取りつけたんだ」
「作曲ができるの!?」
手が器用な人は、脳みそのできも違うのだとわたしは感嘆した。
「あと、タイトルは?」
ひどく慌てた様子わたしが可笑しかったのか、香さんはクスクス笑い始めた。
「あわてんぼうの蕾だね。あのね、作曲は初めてなんだ。口ずさむことはあっても、実際に、音階にしたことはなかったよ。だけど、蕾のために精力をフル活用したよ。題名は‘つぼみ’だよ」
(せ・・・・・・精力!?)
ちょっと意味を履き違えているような気がするが、苦労したということは十分に伝わっていた。
「ありがとうございます。香さん!」
早くその手作りオルゴールが欲しくて、今か今かと気持ちが昂ってきた。
しかし、予想を大きく覆すことを香さんは言った。


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