jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
その灯りは、祭り騒ぎを連想させ、わたしを愉快な気持ちにさせた。
そして、蜜を欲する蝶のように、甘美に誘惑されたのだろう、足は意識せずとも勝手に進んでいった。
機械的なわたしが、未知の世界に足を踏み入れようとしている。
きっと、心の中では密かに舌舐めずりをしているだろう。
ゆっくり着実に一歩一歩進むわたしに、迷いなんて気持ちは全く存在しなかった。

店の目の前には、大きな木製の扉があった。
年月を感じさせるような光沢は古色を帯び、所々についた傷跡はどれも意味ありげに主張してきた。
重厚でなめらかなドアノブを握ったとき、正面に店名が彫られていることに気付いた。
『jack of all trades』
(どういう意味だろう?)
そう疑問を抱えながら、そっとドアノブを引いた。

カランカランと少し重く寂びれたベルの音が店内に鳴り響いた。
店内を見渡しても、誰1人として見当たらなかった。
声をかけようと迷ったが、人見知りの性格に負けて、ひとまず店内を散策してみることにした。
店内は全て木製で、歩くとたまにギシッと音を立てる部分もあった。
キャラクターのグッズはもちろん、ブリキのおもちゃも棚に並べられていた。
その他にも、古風・レトロ・異国を想わせる小物や家具が所狭しと置かれていた。
1番多いのは時計で、腕時計や壁掛け時計などの古時計がざっくりと飾られていた。


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