jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
いつの間にか、わたしたちは抱き締め合っていた。
抱き加減は強烈といった感じではなく、壊れ物を扱うような繊細さを感じる抱き方だった。
出会った頃のような、優しい気持ちが広がっていった。
こんなに愛し合っているのに、どうしていけないの?
ただ、時間が邪魔をしただけ・・・・・・。
正直、先はどうなるか分からない。
香さんはわたしに秘密事をしているから。
秘密とは、隠さなければいけないもの。
それが、純良なものだという確立は無いに等しい。
香さんは悪魔だ。
天使なのに悪魔だ。
今となっては、わたしも同じ。
わたしたち悪魔は、いつか天使になれるのだろうか?
だけど、天使になる必要はあるのだろうか?
悪魔が悪、天使が良、黒か白か・・・・・・。
はっきり仕分けされるのが美徳な世の中だからこそ言いたくなる。
気持ちだけは、純粋で色がない。
鏡のように、愛する人しか映せない。
感情を持ってしまった人間への罰から、逃れることはできない。
(香さん、愛してる)

メロディーが途切れても、わたしたちは抱き合ったままだった。
「蕾は、作詞が上手だね」
「そんなことないよ・・・・・・。わたしは、ほとんどネガティブな歌詞しか書けない。だけど、香さんは違うよ」
香さんは何も言わなかった。
しかし、しばらく続いた沈黙を優しく破ったのは香さんだった。
「蕾、愛しているよ」
「わたしも・・・・・・」

(そう、香さんを愛してしまったよ・・・・・・誰よりも・・・・・・)


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