jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
いったい、どれが売り物で飾り物なのか、区別がつかないほど自由に散らかった店内に圧倒されながら、1つ1つの雑貨に目を通していった。
手に取って観察しているうちに、賑やかに騒いでいた気持ちは、徐々に哀感へと変化していった。
なぜか、全てのものが泣いているように見えた。
(わたしと似たようなミザリーを抱えている?)
斜め後ろにある鏡に映った自分は、かぐや姫のように長い黒髪を携え、そして、いつの間にか頬には涙がつたっていた。
そのとき、少し離れた場所から男性のテノールの声が聞こえてきた。
「驚いた! 珍しいなぁ。夜に客がくるなんて!」

驚きのあまり、角膜上に盛り上がった塩水は一気に乾き、残すは頬に残る跡だけとなった。
何と返答すればいいのか考える余裕もなく、出てきたのはとっさの一言だけだった。
「ごめんなさい・・・・・・」
謝ればなんとかなる精神のわたしは、案の定、意味もなく謝るしか脳がなかったようだ。
「どうして、君が謝る? お客さんだろう?」
その温和な口調は、警戒心を聊か溶かしたようで、いつ間にか瞳は男性を映し出していた。
しかし、緊張のため、ふわりとしたブラウンの髪に、白い肌の持ち主だという大まかな特徴しか分からなかった。
「すみません・・・・・・。そんなつもりではなくて・・・・・・。その・・・・・・恥ずかしながら、あてもなく歩いていると、ここに辿り着いたんです」
残酷にも即答は得られず、沈黙が訪れたため、羞恥心がふつふつと湧き上がってきた。






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