jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
数週間後、わたしたちは例の雑誌を見ていた。
「上品な何でも屋、jack of all trades。 多種多様な雑貨が、隙間なく並べられているだけでなく、更に修理もしてもらえる。そこには、悪魔のような店主と、天使のような助手がいる。そのかけ離れたオーラが、この店の魅力でもあるだろう、だって・・・・・・。あのカメラマンさん、反省しているのか、嫌みを言っているのか分からないね」
可笑しくなって、ついつい笑ってしまった。
「ところで看板娘はどうなったの?」
「あぁ、それなら・・・・・・あっ、あったあった。これだよ」
香さんが指差した写真を見ると、そこにいたのは、元祖キャラクターのマネキンだった。
「可愛いだろう? 蕾の次に可愛いんじゃないかな? 蕾は、僕の瞳にだけ映っていればいいんだよ」
そう言って、わたしの頬にキスをしてきた。
「!?」
一瞬、声をあげてしまいそうになった。
弧を描く、色気漂う香さんの唇が、目の前でわたしの肌に吸いついてきた。
舐めるように、貪るように頬を溶かしていった。
穴が開いてしまうんじゃないかと思うほどに、熱を帯びて・・・・・・。
わたしの両腕は、自然と香さんの背中へ回っていった。
抱き締めないといられない。
不自然なく密着できる人こそが、愛すべき人なのだろう。
フィーリングに従うと、幸せを感じることができるのだ。
もしも、それが罪であったとしても・・・・・・。

香さんとわたしの秘密の日常生活は、和やかに過ぎていった。
このまま、ゆっくり進んでいけば、波乱なんて訪れないんじゃないか?
そう甘く考えていた。






< 51 / 159 >

この作品をシェア

pagetop