jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
キンクマハムスター
木の葉が色づき初め、肌寒い季節がやってきた。
秋が巡ってきたということは、香さんと出会ってもう1年が経つのだ。
当初と比べて、特に変わったこともなく、今まで誰かに何かを言われたわけでもなく、基本的に平和な日々を過ごしてきたように思う。
唯一、変化したことは、わたしたちの奇妙な特性から発生する波長が、何度も重なったおかげで、更に絆が深くなったことくらいだ。

愛しい人ができると、どうしても子どもが欲しくなる。
彼と1つになれた証、そして自分と彼の遺伝子を組み込んだ最高傑作。
これ以上に極上な宝が、どこに存在するだろうか。
最愛の彼に、最愛の赤ん坊、想像するだけで、リビドー(本能的欲望)は満たされていく。
だけど、それは今のわたしにとって、夢物語に過ぎない。
薄々気付いてはいるものの、香さんの立場を理解することから逃げ、それ以前に秀斗に告別さえしていないからだ。
満潮になったリビドーは、徐々に干潮へと変わり・・・・・・そしてまた欲が湧いて満潮へ・・・・・・でも諦めで干潮へ・・・・・・。
海のように動く欲望を安定させるのは、至難の業のようだ。

香さんと何かを育てれば、同じものに愛を注げば、少しは気持ちが安らぐのだろうか?
そう考えたわたしは、仕事の休憩中、インターネットで「一番飼いやすいペット」と検索してみた。
その結果、小動物がおすすめで、特にハムスターが飼いやすいことが分かった。
ハムスターの中でも1番懐くのは、キンクマハムスターという種類だった。
場所も取らないし、経費もそれほどかからない、うってつけペットだ。
その日の夜、さっそく、香さんに相談してみることにした。








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