jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
「蕾おめでとう。男の子だ。ほら、育児セットだって、もう揃っている」
声のする方へ視線を動かすと、なんとそこには、家の形をしたハムスターハウスが誇らしげに置かれており、餌入れや水飲み、寝具や回転車、トイレなど全てがセットされていた。
その他には、主食やおやつ、木屑やチモシー、齧り木、更に移動用の小さいハウスまでが並べられていた。
わたしは目を見開いたまま絶句するしかなかった。
「なぁ、蕾、名前はどうするんだ?」
香さんは、せっせとハウスの最終準備に取り掛かっていた。
わたしは、お腹に乗ったキンクマハムスターに視線を戻した。
サラサラの金色の毛は、見ているだけで明るい気分にしてくれた。
今さっきまで驚愕していたことも忘れ、真剣に名前を考え始めた。
(秋に産まれた、黄色い子・・・・・・)
今日はわたしが着ている服は、茶色のワンピースだった。
(秋に茶色から産まれた、黄色の子・・・・・・)
インスピレーションは突然に湧いた。
「栗よ! だから、マロン! マロン君よ!」
わたしはなんて名付けのセンスがあるんだろうと、自惚れして思わずにやけた。
「美味しそうな名前だね。そんなににやけて・・・・・・食べてはだめだよ。さぁ、マロン、安全なパパのところにおいで」
そう言うと、わたしからマロンを奪っていった。
(食べるわけないわよ! いやらしい顔で悪かったわね!)
そう心の中で憤慨しながらも、香さんの優しさに胸が熱くなった。
わたしはあなたが大好き。
世界で一番。
ありきたりな言葉がしっくりくる感覚は、香さんだけでしか味わえないだろう。
いいえ、あなただけで味わいたい・・・・・・あなたがいい・・・・・・。
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