jack of all trades ～珍奇なＳ悪魔の住処～【完】

痛くはなかったものの、予期せぬ展開に今度はわたしが目をぱちくりさせる破目になってしまった。
「香さん･･････？」
瞳は真剣で、数ミリの余所見も許さないほど、わたしの瞳を釘付けにした。
「蕾･･････」
「は･･････はい」
素直に返事をしても、香さんから漂う怒りとも悲しみともとれるオーラは、全く色褪せなかった。
「約束して。絶対そのペットショップに行ってはだめだよ。そこにはお婆さんがいるんだ。絶対会話をしてはいけないよ。何を聞かれてもね。分かった？」
その問いかけは、拷問としか言えなかった。
立場逆転、香さんの雰囲気に押されて、渋々返事をするしかなかった。
「良い子、良い子」
そう言いながら、わたしの頭を撫で、いつもの優しい香さんに戻っていた。
（そのお婆さんと仲が悪いのかな？）
そんな平凡なこと考えながら、約束したことは守ろうとそのとき考えていた。

キンクマハムスターは他の種類と比べて、大きく成長する。
よって、寿命も少し長く、２年半から３年は生きるそうだ。
それにしても、短い命だ。
だからこそ、わたしたち両親は決めたんだ。
生きた長さが１番大切ではなくて、どれだけ充実した人生を全うしたか。
マロンには、絶対に幸せになってもらおうと。
世話はもちろん、スキンシップは、本人がウザいと思いそうなほど念入りにした。
もちろん、怖がったりストレスをかけない程度だ。
ちょっとした成長にも一喜一憂し、わたしたちが注ぎ足りない愛情は、全てマロンに捧げられていった。