jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
お婆さんがこちらをじっと見てきた。
「あの、すみません。さっき、背が高い茶髪の男性が、ハムスターの餌を買いにきたはずなんですけど・・・・・・。持って帰るのを忘れてしまったみたいで、わたしが代わりに取りにきました」
お婆さんの視線は、更に強くわたしに注がれ、まるで鑑定士のように隅から隅まで舐めるように見てきた。
(な・・・・・・何!?)
すると、突然、店内にしゃがれた声が響いた。
「あんた、あの何でも屋の彼女かい?」
老人とは思えないほど、大胆で率直な発言に面喰った。
「・・・・・・いいえ、お友達です」
何を聞かれても軽くスルーしていこうと、心に強く誓った。
「そうかい。ならいいんだよ。あの男は止めておいた方がいい。嫁が行方不明なんだよ。理由は知らないんだけどねぇ。お前さんの気持ちが友達というのなら、何の問題もないよ。さっ、もうすぐ店を閉めるから、餌を持って帰んな」
わたしは餌を手渡されたが、手を差し出すところか、立ちすくんだまま全く動けなくなってしまった。
「どうしたんだい? わたしは噂しか知らないよ。聞くなら本人に聞けばいい」
付き合えないのには理由があると分かっていた。
いつかは壁にぶち当たるときがくると心構えをしていたはずなのに、噂を聞いただけで、心底が崩れ落ちそうになっていた。
(その噂はきっと真実だ・・・・・・。知りたい・・・・・・。だけど、本当に聞いていいの?)
本人に直接聞く勇気は、出会ったころと同じように、これっぽちもなかった。
自問も充分にしないまま、いつの間にか口走っていた。
「教えてください・・・・・・彼の過去を・・・・・・」


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