jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
タチ
あれから、1カ月が過ぎた。
もちろん、香さんから携帯に連絡がくる。
だけど、わたしは電話には出なかったし、メールも仕事で忙しいと送るばかりだった。
何も変わらないのは、秀斗とのデートだった。
香さんと出会って、ときめきの快楽に芽生えてしまったわたしは、秀斗といる世界は灰色でしかなかった。
色とりどりの甘いキャンディーが、空から降ってくるような気分も味わえない。
それに、相変わらず、抱き締めて欲しい、キスして欲しい、あなたにならわたしの全てを捧げますといった昂った気持ちは全く生まれてこなかった。
だけど、別れられない。
どうしてだろう?
1人で生きていくのが怖いから?
新しい世界に足を踏み入れるのが怖いから?
そして、結婚の2文字が頭をよぎっていく。

香さんを愛しているのに、今だって・・・・・・。
きっと、裏切られたわけじゃない。
だけど、わたしは耐えられなかった。
わたしだけを見て欲しかったから。
この2年間、勘違いしていた自分に、思い込みの激しい自分に、嫌気が差していた。
それと同時に、香さんへの清い思いも、嫉妬と疑いというダークカラーに染められていった。
真実も知らないくせに、わたしは逃げ道に走った。

秀斗も香さんも、白いわたしを黒に染め上げたんだ。

憎しみが入り混じった気持ち、戻りたい気持ち、そして、他の誰かにすがりたい気持ちが、複雑に入り組んだわたしは、寂しい症候群に陥ってしまった。
もがけばもがくほど、深くはまっていく。
ただ、手を伸ばして、一筋の光を探すしかない。
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