jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
ニット帽にマフラー、手袋、上下ナイロン製のジャージを着用し、風通しを防いでいた。
本を膝の上に置いて、空を見上げていた。
(いつ、出会えるんだろう? 永遠に無理なのかな・・・・・・)
きっと、わたしが貪欲なせいで、神様から天罰を与えられているのかと思うと、涙が滲んできた。
幸せでもないのに、欲張りだと決めつけられていることが悔しかった。
わたしは、ただ自分が愛せる人に愛されたいだけなのに、皆が普通に掴んでいる幸せが掴めない。
運命を呪ってしまいたくなるわたしは、なんて貧寒な心の持ち主なんだろうか。
心だけじゃない、この格好だってそうかもしれない。
(そっそうよ! こんなんじゃだめ!)
わたしは、日が経つにつれて、諦めモードになっていたのだろう。
いつの間にか、乙女心やお洒落心を微塵も感じない、だらしのない格好に変化していた。
もし、この状態で彼女に出会ってしまったら、自信を持って呼び止められるか?
いざ、声をかけることができても、話す内容は頭にインプットされているか?
リアルなシュミレーションを怠っていたことに気付き、情けなくなってきた。
そして、更に重大なポイントは、秀斗と遊ぶ時間、ここにわたしはいないということだ。
わたしが灰色の世界に浮かんでいる間、志音はどこで何をしているんだろう?
あなたは何色の世界に住んでいるのだろう?

今日も相変わらず何も進展はなかったが、大きな気付きがあったので満足感を得られた。
このナイロン製のジャージは、志音のために着られることはもうないだろう。


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