jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
エスカレートする俺様的な態度に、わたしは感動さえ覚えていた。
志音は男に近いが、所々に気高き女の色気も見え隠れしていた。
口から零れる声と言の葉、そして動くたびに醸し出される艶めかしさ。
男性と女性を、黄金比率で合体させたようなハイクオリティーな魅力に、わたしは戸惑っていた。
ときめきという可愛いレベルを、一気に超越してしまったのだろう。
「ごめんなさい」
口癖の謝罪で、どうにかご機嫌が治ることを期待した。
しかし、志音は一筋縄にはいかないようだ。
「謝られても、言葉だけじゃ心が分からない」
しゅんとしたわたしは、志音に聞いた。
「じゃあ・・・・・・どうしたら分かってくれるの?」
志音はいつの間にか、差し伸べていた手を引っ込めて腕組をしていた。
(さっき、素直に手を置いていたらよかったな・・・・・・)
後悔しても、時すでに遅しだった。
「そうだな。名前、携帯のメアドと電話番号教えてくれたら」
(なんだ、そんなことでいいんだ)
ホッと胸を撫で下ろたときには、いつの間にか緊張も解けていた。
「わたしは、花咲蕾です。携帯情報は、メモ帳にかくよ」
鞄をごそごそし始めると、志音はすかさず言った。
「書かなくていい。携帯貸して」
「あっ・・・・・・うん」
素直に携帯を手渡すと、志音は携帯と携帯を合わせ、赤外線通信していた。
(その手があったか!)
機械に弱く、時代の流れにもついていけないわたしは、本当に情けない限りだ。

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