jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
香さんと向き合って、明確な決着をつけなければ、幸せは訪れない。
再び現れた登竜門を目の前にして、胃がキリキリ痛んだ。
1つ1つ解決せずに逃げてきた、わたしへの仕打ちだ。
携帯を持つ手は震えていた。
それは恐怖なのか、緊張なのか、勇気を奮い立たせようとしているのか分からなかった。
答えが出す間もなく、恐ろしく懐かしい声が聞こえた。
「蕾? 久しぶりだね。マロンも元気だよ。一生声を聞かせてくれなかと思っていたから、嬉しいよ。少し複雑な気持ちもするけどね。真実を聞いてくれる気になったか?」
香さんの声はトーンが上がっていて、わざとに元気を振舞っていることが分かった。
「マロンのことはごめんなさい。わたしが預かった方が良いと思ってる。香さんの話より先に、わたしの話を聞いて欲しい。それから、香さんが真実を話すか話さないか決めてください」
少し間を空けてから、香さんは言った。
「あぁ、分かった。今の僕は何を聞いても、そう簡単には曲がらないと思うけどね」
嫌味なのか、愛なのか、意味深なコメントした香さんに、わたしは単刀直入に伝えた。
「わたし、香さんと離れたあとに、好きな人ができた。だから、秀斗と別れたの。だけど、その人と一緒になるためには、あなたとの関係にも決着をつけなければいけない。でも、わたしたちは付き合っているのかも分からない。だた、気持ちに整理をつけたらいいだけなの? 疑問だらけなの。だけど、もう嘘はつかない、逃げない。実はわたし、心が男性の人と想い合っているの」
更に長い沈黙が訪れた。
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