jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
わたしは、つられ笑いできるわけがなかった。
(決められない)
ただ、その一言が脳内を支配していた。
(香さん・・・・・・志音・・・・・・)
2人への気持ちが友情だったならば、別れはなかったのかもしれない。
恋愛は、蜜にも刃にもなる。
「戻ってこい。蕾」
香さんは強い口調でわたしの名を呼んだ。
真実も伝えられないまま、ずっと待ち続けていた香さんの思いが爆発したのだろう。
耐えきれなくなったわたしは、「少し考えさせて」とだけ言って、電話を切った。
(これも逃げ・・・・・・?)
わたしは沈んだ。
志音に報告しなければいけないのだ。

どうしてこんなに優柔不断なのか?
はっきり決断できないのか?
いったいこの心理は、わたしのどこから生まれてくるのだろう?
28年間、外界に揉まれながら、後天的に宿った悪癖を、即時に剥がし取ることは不可能に近いだろう。
愛する人に脅されても通用しないんだ。
重度の悪癖だろう。

「もしもし、志音・・・・・・」
「蕾、どうなった?」
わたしは、香さんに言われたことを、出来る限り漏れがないように話した。
「もう少し考えるってどういうことだ? あいつを選ぶ可能性があるということか? もし、あいつと蕾が友達関係になったとしても、わたしは許せない。一度でも、恋愛感情が生まれた仲だからだ。我がままかもしれないが、わたしは愛する人には真摯でいたい。
だから、相手にも同じことを望む。だから、蕾が迷っている間にも、わたしの気持ちは徐々に変化していくだろう。すぐにわたしを選んではくれなかった。その代償は大きい」





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