jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
辿り着いた先に見えるのは、小さな可愛いお家。
入ってもいいのかな?
中には何があるんだろう?
そんな不安を抱く必要はない。
勝手に扉を開けても叱られない。
それに、その中に何が存在するのかも知っているから。
何でも屋『jack of all trades』店主、野乃片 香。   

錆びれたベルの音が、耳に優しく響いた。
それと同時に懐かしい甘い香りが鼻をくすぐった。
いつの間にか、キンモクセイの王子様がわたしを抱き締めていた。

「お帰り、蕾・・・・・・」
「ただいま、香さん・・・・・・」
香さんだけど、今までの香さんではなかった。
もう香さんは誰のものでもない。
それはわたしも同じで、誰のものでもない。
今思えば可笑しなものだ。
言葉だけで、付き合っていると決められて、紙切れ1枚で、契約に縛られる。
心底から愛していると思い合えなければ、こんな狭い檻に大人しく入っていられるわけがない。
あなたの檻に入れられたい、捕まって幸せだ、そんな気持ちが何年も続く自信はあるだろうか?
恋はまだしも、結婚となればそれくらいの覚悟が必要だろう。
わたしにとって、結婚という2文字は、今はまだ鉛のように重かった。
抱え切れる自信がない。
そんなことを思いながら、再び愛した人に抱かれているわたしは、どんなに小胆でずる賢い小悪魔なんだろう。
しかし、今、この瞬間、純白の天使に囲まれながら、天に昇っていくような気分を味わっていた。。
もしかして、白く白く塗り替えられているのだろうか?

純白の世界に桜の花びらが舞う。
この桃色の花びらは、わたしの蕾が開花したものだろうか?
「僕はずっと待っていたよ」

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